アラン殿下は、サンドリーヌ様の腰を抱き、恋情を隠すことなく彼女へと注いでいる。その後ろには、彼らの取り巻きたちがぞろぞろと付き従っていた。
中庭で授業の合間の休息をとっていた者たちは、殿下とサンドリーヌ様の登場にそれぞれの反応を見せる。
私と同じ高位貴族である公爵家や侯爵家の令息令嬢たちは、あからさまではないものの顔を顰め、彼らの言動に不快さを示している。
けれど以前から私が「なにも言わないでほしい」とお願いしているため、諫言する者はいない。
一方、普段サンドリーヌ様と親しくしている男爵令嬢や子爵令息たちは、私の方を見ながらここぞとばかりに嘲笑を浮かべていた。
筆頭公爵家の令嬢である私が、下位貴族である男爵令嬢のサンドリーヌ様に負けているこの状況が面白くて仕方がないのでしょうね。
いつものことと、特段気にすることもなく読書を続ける。
すると、私が無反応だったのが気に障ったのか、サンドリーヌ様はこちらをキッと睨みつけたあと、両手で口元を覆う。
「アラン様にそう言ってもらえて嬉しいのですが、私はもう少し落ち着きなさいってよく注意されるんです。この前も、話し方がはしたないって、みんなの前で怒られてしまって……」
器用にぽろりとひと粒の涙を零したサンドリーヌ様を見た殿下は、キッと眦を釣り上げる。
「誰が君にそんなことを!」
「そ、それは私の口からは……」
控えめにそう言うと、サンドリーヌ様は小さく俯く。もちろん、視線を私に向けながら。
すると、視線の先にいる私を見た殿下がツカツカとこちらへ歩みを進めてきた。
「お前! サンドリーヌの何が気に入らぬというのだ!」
不躾に投げつけられた言葉が自分あてだと知りながら、それでも私は読書を続けた。私の振る舞いに、こちらを盗み見ていた周囲の者は一様にぎょっとしている。王子殿下を無視するなんて、本来なら不敬ですものね。
けれど、名前を呼ばれたわけではないから無視をしているわけではないわ。
「おい、聞いているのか!」
アラン殿下は顔を真っ赤にして、私の読んでいる本を乱暴に取り上げた。
そこでようやく、私は顔を上げる。ゆっくりと淑女らしく立ち上がり、片足を引いて頭を下げた。
「ごきげんよう。第三王子殿下」
「一体どういうつもりだ! 俺が話しかけているというのに、無視して本を読むなど不敬だ!」
「殿下が私にお言葉を? それは気付かずに失礼いたしました。私に話しかけているとは思わなかったのです」
「この距離ならば名を呼ばれずともわかるだろう!」
苛立たしげに言い捨てる殿下の隣に、サンドリーヌ様がそっと寄り添う。そして、さも当たり前のように会話に割って入ってきた。


