さぁ殿下、流行りの婚約破棄をいたしましょう



王都にある王立学園には、十五歳から十八歳までの貴族の子息令嬢が通っている。

学園では自主性と自立、そして平等を理念として謳っており、貴族社会では避けて通れない階級の差はないとされていた。

当然ながら、それは下の身分の者が上の身分の者を蔑ろにしていいという意味ではない。階級によって受けられる教育の質に差が出ないよう、一律に学びの機会を与えるという意味だ。

その中で切磋琢磨しながら貴族として必要な知識やマナー、教養、人付き合いを学び、人脈を広げ、自身の領地領民のため、ひいてはこのアルゼリア王国のために尽くすよう努力するのが貴族の務めだ。

もちろん私もアルゼリア王国の筆頭公爵家令嬢として恥ずかしくない振る舞いを心がけ、この学園で日々勉学に励んでいるのだけれど……。

「やだぁ、アラン様ったらー!」

レスコー伯爵家の誕生日パーティーの翌日。

図書室で借りた領地経営に関する本を読んでいると、今日も学び舎にそぐわぬ、砂糖菓子に蜂蜜をかけたような甘ったるい声が響いた。

声の主は、サンドリーヌ様。彼女はこれみよがしに隣を歩く男性の腕にぎゅっと抱きつき、口元に勝ち誇った笑みを浮かべる。

(チラチラとこちらを見ながら……毎日飽きもしないでご苦労なことね)

すると、隣の男性までもが周囲に聞かせるような声のボリュームで会話に応じた。

「ははっ。サンドリーヌは今日も愛らしいな」

そして、すでに聞き飽きたお馴染みのひと言を口にする。

「本当に、少しはサンドリーヌの愛らしさを見習ってほしいものだ」

あきらかに私に視線を向けながらそう口にするのは、このアルゼリア王国の第三王子アラン・アルゼリア殿下。約五年ほど前に王命によって定められた、私の婚約者だ。

(もう少し嫌みのバリエーションを増やせないものかしら。やっぱり教養って大事ね)