目を凝らして見ると、彼方には、この目の前の階段とは違い、何かの修行かと思うほどのやたら長い階段も見える。
 なんだか、興味深い。
 What a beautiful morning⋯⋯
 美しい風景に静かな感動を覚え、エイス・オブ・ベイスの歌を口ずさみながら、しばらくぼんやりと佇んでいた。
「おはようございます⋯⋯」
 小さな声に振り向くと、声の主である若い女性が、足早に階段を下りていった。
「あ、おはようございます」
 彼女も散歩だろうか?別の道ではお爺さんも散歩していたし、この町は早朝散歩をする人が多いのかもしれない。私のような見知らぬ女が一人で歌っていたら、不気味に思われたか。
 今は、この階段を下りるのも、あの遠くの階段まで行くのもやめておこう。
 これがセロトニンなのか?と思うような、ささやかな幸せを感じながら、自宅に帰る。
 そっと玄関のドアを開けると、いい匂いが漂ってきた。