穏やかすぎる愛に包まれて

　私が安さ以外に何も考えず買ってきた食材は、いつものように美味しそうな夕飯に変身していた。
｢いただきまーす｣
　本当に、なんてことない日常。
　ドラマチックな出来事ことなど、二人の歴史の中では何もなかったかもしれない。
　若い頃から、そんなにベタベタイチャイチャするタイプでもなく、だからこそ、友達と恋人の境目が曖昧なまま、いつの間に離れられなくなった。

　食事が終わり、私が食器を洗い、性懲りもなくノートに向かっていると、彼は風呂から戻ってきた。
｢小説のほうは捗ってる？｣
　缶ビール片手に、私の手元には青りんごサワーを置いてくれた。
｢全然ダメ！とりあえず飲むっきゃないわね｣
｢そのノート、ちょっと見せてよ｣
｢えっ！？それは恥ずかしいんだけど⋯⋯｣
｢今さら何を恥ずかしがるの｣
　そんなことを言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
　恥を忍んで、渋々、ノートを滑らせた。