穏やかすぎる愛に包まれて

 触れたり、触れられたりが苦手なので、肉欲に溺れる人の気持ちもわからないのが本音だ。
 幸い、彼も若い頃から似たようなタイプだったので、もはや、私たちの暮らしは、単なる同居なのかもしれない。
 こんなに仲睦まじいのに、若い頃から体の関係は数えるほどなんて、傍目には奇妙なのだろう。

「買い物に行ってこようかな」
 恋愛小説作成用のノートを閉じ、冷蔵庫にぶら下げた車のキーを手に取る。
 すぐ近くのスーパーまで車を走らせながら、いつも車で同じ店にばかり来ているから、町内のことすら何も知らなかったのだと気付く。
 朝の散歩で遠くに見えた、やたら長い階段のことが気になったが、遠目には、車では行けなさそうだった。
 夕方近いスーパーは、特に目新しさもない。
 彼も言っていたように、私は料理が苦手なので、お買い得の食材を考えなしに買う。
 それを、彼がうまく活用して夕飯を作ってくれる。