穏やかすぎる愛に包まれて

 一緒に暮らし始めたのは、彼の転勤がきっかけだった。
 実は、その時にプロポーズされたのだが、
「結婚っていう形でなくても構わないなら、何処へでもついて行くよ」
 そう答えた私。
 彼は少し驚いていたが、私の育った家庭の問題について、嫌と言うほど知っているから、籍を入れることなく一緒に暮らし始め、それがずっと続いているという状態。
 せっかく、婚約指輪を用意してくれたのに申し訳なかった。
「じゃあ、この指輪は誕生日プレゼントとして受け取って」
 婚約もしていなければ、将来これを譲る子供もいないが、お守りのように大切にしている。

 彼のことは今でも好きだ。心から愛してさえいる。ましてや、別れる気など全くない。
 しかし、私は燃えるような恋も、複雑な恋も知らないのだ。
“束縛し合わない関係”なんて、冗談半分で他人に言っているだけで、彼とそういう関係でいようと決めたわけではないから。