急に顔が近づいて、詩乃は明人がこの上なく端正な顔立ちなのに嫌でも気がついた。

 美しい面差しに、獲物を見定めるように切れ長の目がすっと細められている。

「え、えっと」

 答えられずに、詩乃はおどおどと両手の指を絡めた。

 ちらりと見上げると、明人は相変わらず蠱惑的にこちらを見詰めている。

 薄い唇が、笑い出しそうに歪んでいた。

「顔が赤いですよ」

 低い、低い声が耳朶を掠める。

 溶けていきそうな甘いバリトンに、一気に感覚が蘇った。

 あの夜、抱き締められたこと。このまま、身を委ねてしまおうかと本能的に感じたこと。

 ぞくりと、深く静かな興奮が身体の中で脈を打つ。

「なに、考えてるんですか?」

 もうほんの少し、距離が縮まった。

 明人の声はもう、囁くように低い。

「なっ、な、なんにも!」

 もう、詩乃は耳まで真っ赤になっていた。

 顔が熱い。気がついたら、胸の鼓動がドキドキと早鐘を鳴らしている。