その夜の食卓には、少々不恰好なオムライスが並んだ。

「ごめん! もうちょっと可愛いオムライスになる予定だったんだけど!」

 詩乃が嘆きの声をあげながら、皿をテーブルに置く。

 トロトロ卵タイプのオムライスだ。少々固まりすぎて、チキンライスの上にデンと乗っかっている。

 お手本のようなオムライスではないが、美味しそうだ。

「いただきます」

 明人は顔色を変えずに、すぐに口に運んだ。

「ど、どう……?」

 ドギマギしながら、詩乃が上目遣いに反応を伺う。

「美味しいですよ。上手に出来ましたね」

「よ、よかったー!」

 ほっとして、詩乃は座椅子の上でひっくり返った。

「いただきますっ」

 テーブルに向き直り、スプーンを掴んで自分でも一口食べる。

「うん。大丈夫そう。やっぱり、ちょっとだけ味が薄いかな?」

「ケチャップをかければ、ちょうどいいですよ」

「あ。ケチャップかけるの、忘れてた」

 キッチンにパタパタとかけていった詩乃が、ケチャップを手に戻ってくる。

「ほい。明人くんの、貸して」

 言われるがままに、明人のオムライスが詩乃の目の前に渡る。

 詩乃は黄色い卵一面に、ケチャップで大きくハートを描いた。

「はい、どうぞ! 愛、込めときました〜」

「ありがとうございます」

 明人が、ふっと笑う。

 赤いハートの形は、ちょっとゆがんだ卵の黄色を美味しそうに彩っていた。