それから、一週間余りが経った。

 この期間は明人が少し忙しかったようで、他愛のない連絡をしたきりだ。

 昨日あたりから、少しゆとりが出てきたと、明人はメッセージアプリで言っていた。

 詩乃はうーんと伸びをして、デスクを片付けた。

 定時ちょっと過ぎに、みんなに挨拶してオフィスをあとにする。

 退勤する頃には、すっかり夜の帳が下りていた。

 会社から駅に向かうまでの道のりで、詩乃は歩きながら電話をかけた。

「もしもし」

 数回の呼び出し音のあと、聴き慣れた低い声が耳に届く。

「もしもし〜。明人くん、お疲れさま!」

 ローヒールを鳴らしながら、軽い足取りで駅へと向かう。

 彼の声が聞こえた瞬間、一日の疲れは吹き飛んでしまった。

「ええ、お疲れさまです」

 沈んだような、少しハリのない声。

 詩乃は、明人の微妙な声の調子を敏感に察知した。