「うふふふ……」

 とりあえず、午前中はやり切った。きっと、午後もあっという間に過ぎていくだろう。

 パソコンをスリープにしながら、詩乃は思わず笑みが溢れた。

「どうしたの?」

「あ、いえ。なんかわたし、一所懸命仕事してるなと思って」

 本当に転職して良かったのか、なんて、一瞬でも思ったのがおかしいくらいだ。

 間違いなく自分はもう、この職場にやりがいと居場所を見つけている。

 決してこの一社に固執するわけではないが、出来れば長く勤めたい。

 事務員として、少しずつ地道に経験を積んでいきたい。

 そんな風に、素直に思えた。

「ありがとう。でも、頑張りすぎなくていいのよ」

 沙耶が、相変わらず優しく声を掛けてくれる。

(なにか、いいことでもあったのかしら)

 吹っ切れたような詩乃の横顔を見て、沙耶は内心ひとりごちた。

「ありがとうございます」

 詩乃が、デスクから立ち上がる。鞄から財布だけを取り出して、小脇に抱えた。

 もう、大丈夫だ。過去の悔いは昇華出来た。今の仕事が好きだからだ。

 ゆっくりお昼を食べて、午後からも頑張ろう。

「もう、大丈夫です」