何かに耐えているような、我慢しているようなあの表情。

 甘い誘惑に、屈しそうになっているようにも見えた。

(それって、わたしのことを……)

 女の子として、意識している?

 あの夜、もしかして彼は、あの先を想像したのだろうか?

「いけないいけないっ」

 誰にも聞こえない程度の、小さい声で呟く。

 このままでは、どこまでもあてどない妄想にのめり込んでしまいそうだ。

 詩乃はメールボックスを改めて見直し、いつも以上に気合いを入れて仕事に向き直った。

 
「あの、詩乃ちゃん?」

「はいっ」

 画面に没頭していた詩乃は、沙耶の声掛けでハッと我に返った。

「もう、とっくに休憩時間よ。お昼、ちゃんと食べなきゃ」

「え、あっ、もうこんな時間」

 気がつくと、もう正午を回っていた。

 集中したからか、お腹も空いている。

「ありがとうございます! 沙耶さん、お昼一緒に行きましょ」

 詩乃が誘うと、沙耶は嬉しそうに微笑んだ。

「ええ。近くに、お気に入りの定食屋さんがあるの。そこはどうかしら?」

「わ! 定食屋さん大好きです。そこにしましょ!」

 詩乃は元気よく答えてから、ちらりと画面を見た。