まだ辞令は出ていないが、ほぼ確定事項だ。

 遠距離恋愛は避けられないだろう。

 転勤先である本社は、この地方都市から新幹線で二時間の距離。

 二人で過ごす日常が当たり前になってしまった今や、それは別世界のように遠く感じられた。

 そもそも、彼女の気持ちをまだ十分に確かめていない。

 下手にこの激しい感情を伝えて、気まずい関係になるのだけは避けたい。

 だから、実際に交際を申し込むのはまだ先で——。

 ここまで考えて、明人はハッと気づいた。

 もう、詩乃に交際を申し込むことを自然と考えている。

 これが、恋なのか。

 明人は、暗い室内に呆然と立ち尽くした。

 恋。もうすぐこの土地を去るこのときになって、嵐のように吹き荒れ始めた恋の心。

 鳴り止まない鼓動に恐ろしささえ感じながら、明人はただ熱い胸を滾らせていた。