彼女への敬愛が高まるのと同時に、思いもよらなかった欲望が、頭をもたげてしまった。

 このまま、彼女を抱いてしまいたいと。

 先日見た、夢のせいなのかもしれない。

 彼女の反応が、誘っているように感じられたからかもしれない。

「落ち着こう……」

 いつになく浮ついた声で、低く呟く。

 このままでは、自分の想いばかりが暴走しそうだ。

 そもそもまだ、交際関係には至っていないのだ。

 それどころか、お互いの気持ちを確かめ合ったわけでもない。

 深呼吸すると、少しずつ気分は落ち着いてきた。

 自宅の扉の鍵を開けて、室内に入る。

 上の空で手を洗いながら、ひとまず今夜帰ってきたのは間違いではなかったと確信した。

 明日の彼女の予定も分からないし、まだ交際しているわけでもない。

 仮に、もし仮にお付き合いを始めるとしても。

 もうじき控えている転勤のことは、どうすればいいのか。