いや! いや、そんなことより。

 あの状況で、こんな激しい劣情を抱いてしまった自分に、明人はショックを受けていた。

 駅で偶然見かけたときの、彼女の泣きそうな顔。

 思わず、あの場で抱き締めそうになった。

 いつも太陽のように明るい彼女が、あんな顔をしてひとりぼっちで佇んでいて。

 守りたいと思った。彼女に寂しさを感じさせる全てから、守ってあげたいと思った。

 そして、部屋で全てを語ってくれたあのとき。

 あんなに迷い、心細そうな、儚げな彼女は初めて見た。

 どうしたら笑ってくれるのだろう。どうしたら安心してくれるのだろう。

 ただ、それだけを思っていた。

「ううん。辞めて、よかったんだ」

 だからこそ、彼女が自分自身で希望を取り戻したとき。

 なんて、強い女性だろう。なんて、勇気のある女性だろう。

 守ってやるなど、おこがましいのかもしれない。

 私はこんな女性の、そばにいられるのか。

 誇らしさと、愛おしさと、尊敬の気持ちで胸がいっぱいになった。