間違えたかもしれない。

 なにを間違えた? すべて!

 詩乃のアパートを足早に去った明人は、暗い夜道を急いで歩いた。

 つい、抱き締めてしまった。あまりに可愛い顔で、笑いかけてくるから。

 自分を頼って、自分にもたれかかって、完全な信頼を寄せる彼女の笑顔を見たら、たまらなかった。

 可愛い。抱き締めるどころか、食べてしまいたいほどに。

 いやいや、彼女のせいではない。きっと自分が、勝手に舞い上がっているだけだ。

 以前見た夢を、嫌でも思い出した。

 詩乃と二人、一糸纏わぬ姿で睦み合う甘い夢。

 あのイメージが、生身の本物の詩乃の姿と重なってしまった。

 明人は足早に歩きながら、思わず口元を手で覆った。

 よくない。これはよくない。気持ちを確かめてもいない女性に、こんな欲望を抱いてしまうなんて。

 自分の中に、こんなにも荒々しい、止められない衝動が生まれるなんて。

 今までずっと体内で眠っていた獅子が、突然目を覚まして吠え出したような。