精一杯の、お誘いだった。

 肌と肌が、衣服越しに重なっている。

 互いを求め合うように、熱くなっていく体。

 女の子扱い、してよ。

 "抱いてよ"とまでは、まだとても言えない。

 でも、もっと強く、抱き締めてほしい。

 芽生えたばかりの特別な感情が、言葉に幾重にもオブラートをかける。

「しているつもりですよ」

 明人が、なにかを堪えるような声を絞り出す。

 やんわりと、詩乃の小さな体を押し返した。

 期待に潤んだ目で、明人を見詰める。

「だから……あまり誘惑されると、困ります……」

 吐息混じりに、明人が呟くように言う。

 目を逸らした横顔は、困ったように赤らんでいた。

「さあ、もう夜も遅い。明日も仕事でしょう?」

「う、うん」

 いつも通りに座り直した明人は、もういつもの淡々とした態度に戻ったようだった。

 遅いといっても、まだ夜の九時だ。

 とはいえ、付き合ってもいない男女が一つ屋根の下にいるには、刺激的な時間帯かもしれない。

「お……お風呂も入らなきゃ。うん」

 ごまかすように、無理やり言葉を探す。