横目に見ながら通り過ぎて、レジで会計をする。

 ふと横を見ると、重いカゴを運ぶのに苦労しているおばあさんがいた。

「お手伝いしますよ」

 詩乃は、カゴをおばあさんのカートまで運んだ。

「ありがとうねぇ。あなたみたいに可愛くて優しいお嬢さん、なかなかいないわ」

 おばあさんが、にっこりして感謝してくれる。

 詩乃は、人に親切にするのが大好きだ。

 ほんのちょっとしたことで喜んでもらえると、自分の方が元気をもらえる。

(この街のこと、好きになれそう)

 軽い足取りで、スーパーをあとにする。

 お惣菜は安かったし、心暖まる会話もできた。

 ここ最近、たくさんいた友達たちとは少し距離ができてしまっていた。

 なにせ、前職は激務だったのだ。出来るだけ連絡は取っていたが、遊びに行く時間すらなかった。

 人と会うのが何よりも好きな詩乃にとって、それも転職の理由のひとつだった。

(まだ、夕飯まで時間あるな。ちょっとだけ、寄り道しちゃお)

 夕暮れの街は、詩乃の新生活を応援するように照っている。

 なんてことないいつも通りの風景なのだろうが、詩乃にはどこか前向きに感じられた。

 お気に入りのエコバッグを下げて、詩乃はウキウキと道を歩き始めた。