この季節になると、退勤したらもう外は真っ暗だ。

 街中には、たくさんのイルミネーションの光が溢れている。

 楽しげな繁華街の真ん中で、詩乃は今夜どうしようか少し考えあぐねていた。

 本当は今日、学生時代の友達と会う予定だったのだ。

 しかし直前になって、友達は体調を崩してしまったらしい。

 謝り倒す友達にメッセージでフォローを入れてから、詩乃はとりあえず駅前へと向かった。

 高架下とかに、一人でも入りやすいバルなんかがあるかも。

 気持ちを切り替えて探索に乗り出した、そのとき。

「うわ。早瀬さんじゃん」

 背後から、不躾な声が聞こえた。嫌な記憶を呼び戻す声色だ。

 振り返ると、そこには前職の先輩がいた。

「お久しぶりです」

 慎重に、最低限の笑顔を作る。

 向こうはニヤニヤしながら、詩乃をじっとりと睨むような目で見据えていた。