明人はパッと目を開け、起き上がって細縁の眼鏡をかける。

 頭の中のもやを振り払うように素早く、ベッドから降りた。

 もう、とても寝られそうにない。

 よこしまな幻惑を思い出さないように、普段彼女が自分に向ける笑顔を思い浮かべる。

 彼女は、自分が変な気を起こさないからこそあんなにも心を開いてくれているに違いないのに。

「……困ったな」

 小さく呟きながら、部屋のカーテンを開ける。

 困った。なにもかも、初めてだ。

 ひとりの女性に、こんなふうに気持ちが乱されてしまうのは。

 窓を少し開けて、冬の冷たい空気に当たった。

 熱く火照った頬を、冷ましたかった。

 いつもの平静な自分に戻りたくて、窓の外を眺める。

 まだ太陽は昇らない。しかし東の空から、ゆっくりと群青色の朝が広がってきていた。