抱き締めたい。離したくない。

 宵闇の薄明かりの中で、明人はまどろみながら想った。

「転勤なんて嫌。明人くん、わたしのそばにいてよ」

 訴えかけるような声を絞り出して、腕の中に飛び込んでくる女性がいる。

 詩乃だ。

「んっ……」

 自然と唇が重なる。舌が絡み合い、溶け合うような口づけが続く。

「転勤なんてやめて。行かないで!」

 叫ぶような、ひたむきな詩乃の声。

 頭の中で、何度も反響する。

「嬉しい。ずっと、こうしたかったの」

 明人の胸で、詩乃はそっと呟いた。

 思わず、強く抱き締める。

 柔らかい身体は、とても熱い。

「明人くん……明人くん……っ」

 熱っぽい声に、耳元が火照るのを感じる。

 いつの間にか、彼女も自分も、一糸纏わぬ姿になっていた。

「すき……明人くん、好き」

 詩乃の囁きを聴きながら、明人はその体を愛撫した。

「もっと……もっときて……」

 掠れたような声で、彼女が熱い交わりを求めている。

 応えたいと、思った。

 いや。彼女が欲しい。応えてあげたいのと同じかそれ以上に、自分の体が詩乃を欲している。

「明人くん、好き……」

 囁くような声に、歓喜の色が混じる。身体が触れ合う。

「離れないで。転勤なんてやめてよ」

 声が、いつまでも反響している。

 いつしか明人は、自分の腕の中に彼女を閉じ込める感覚を得ていた。

「あ……っ、わたし、もう……!」

 深く深く繋がり、彼女とひとつになる。

 幸せな快さが頂点に昇りつめると同時に、切なげな声が、耳元で聞こえた。