「それじゃ、お願いね」
「はい! 行ってきまーす」
総務部は、いくらでもやることがある。
それが、事務職は初めての詩乃が抱いた印象だった。
正直なことをいうと、最初は「なんてのんびりした職場だろう」と、驚いた。
ゆっくりお昼をとる時間はあるし、なんならのんびり雑談する余裕もある。
仕事内容も、前職に比べればその負担はとても軽い。
しかし、与えられた仕事をていねいにやっていると、いくらでもやるべきことは出てくる。
今日頼まれたのは、郵便物を届けるお使いだ。
広報部宛ての荷物が、間違って総務部に届いてしまったのだ。
広報部のオフィスを探して廊下の案内を見ていると、背後から急に声をかけられた。
「あ。君が早瀬さん?」
どことなく、無遠慮な感じの男性だ。
丸メガネをかけ、ヒゲを生やしている。
「はい。総務部に新しく入りました、早瀬詩乃です」
部署ごとの挨拶に言ったときに、見た覚えがある。
誰だったっけ……と記憶を辿っている間にも、彼は遠慮なく話を進めた。
