言いながら、明人はふとあることに気がついた。
「いや。確かに、お礼はすべきですね」
「急にどした?」
「本は、私の人生にとって大事なものです。成り行きとはいえそれを贈ってくれた方に、なにか返すのが礼儀かと」
「いいじゃん」
勇悟は満足そうだ。うんうんと頷きながら、ハイボールをあおる。
「じゃ、今度会ったときに伝えろよ。お礼したいって」
「そうですね。たぶん、何かリクエストされると思います」
「おお、いいねー。進展あったらすぐ教えろよ」
酔いが回って、頬に赤みが差してきた勇悟がニヤニヤして言った。
「進展とは」
「いやなんか、手繋いだとか、腕組んで歩いたとか」
柄にもなく、噴き出しそうになる。この自分が、女性と手を繋ぐ・腕を組んで歩く、なんて。
あまりに似つかわしくなくて、想像がつかない。
「そんなことはしません」
明人は、キッパリと言ってのけた。女性とロマンチックな間柄になるなんて。
このときの明人は、詩乃とこれから築く関係など、知るよしもなかった。
