——またかよ!

 あのときと同じ状況に陥って、詩乃は思わず笑ってしまった。

 それを、男は好意的な反応だと勘違いしたらしい。

「いいでしょ? とりあえずどっか入ろ! 飲むだけだし! ね? じゃあ行こっか!」

 不躾な男が、詩乃の腕を掴もうと手を伸ばした。そのとき——

「私の大事な人に、なにかご用ですか?」

 力強い腕に、一気に抱き寄せられる。

 戻ってきていた明人が、詩乃の肩をほとんど抱き締めるように引き寄せていた。

 明人らしくない性急な動作に、少し驚いてしまう。

「あ、明人くん?」

 見上げた彼の顔は、見たことないほど凍てついた厳しさをたたえていた。

「私の可愛いひとに、ちょっかいをかけるのはやめていただきたい」

 あまりにも冷徹な声が、容赦なく相手を責める。

 整った顔立ちの隅々には、氷のような静かな怒りに満ちていた。

「あ、えっと、あの、すんません」

 ナンパ男は、たちまち縮こまってしまった。