また、緊張とドキドキに支配されそうになる。
気を逸らそうとして、やたらと辺りをきょろきょろしてしまった。
向かいには、小さな本屋がある。
雑貨や小物も置いているような、こぢんまりとして小洒落た店だ。
(そういえば、あの本屋さん)
今日の営業を終えて、暗くなっている店先を眺めて、しみじみする。
思えば、ここで初めて明人と知り合ったのだ。
あれは夏の終わりの出来事だった。
まだ暑さの残る帰り道を、初めて会話しながら帰ったんだっけ。
ちょうどここでナンパされたものだから、まだ知り合いでもなかった彼に恋人のフリをして助けてもらって——
「お姉さん、一人っすか? 飲みに行きません?」
突然、詩乃の視界に、やたらとはしゃいだ男が割り込んできた。
「お姉さんマジで可愛いっすね! 電話番号教えてくださいよ!」
ニヤニヤしながら、知らない男が揉み手して詩乃をじろじろ眺め回している。
