「はい」

 優しく抱き締め返しながら、明人がそっと呟く。

「あなただけが、私を愚かにした……」

 振り絞るような、想いの籠った一言。

 暖かい腕の中で、いつまでも彼の声を聴いていたかった。

「好き。明人くん、大好き」

 思いっきり背伸びして、詩乃は自分から明人に口づけした。

 さっきよりも深く、甘く、お互いを結びつけるようなキス。

 くらくらするような幸福に酔いそうになって、詩乃は、目を閉じた。
「詩乃さん。愛しています」

 濡れた唇が、溶けるように重なり合う。

 どちらからともなく舌を求め合って、とろけるような口づけが続いた。

(明人くんのキス、気持ちいい……)

 ちゅ、ちゅっ、と、軽く音を立てながら口づけは深まっていく。

 感じたことのないふわふわした心地よさに流されそうになりながらも、詩乃はゆっくりと唇を離した。

「……明人くん?」

 明人は顔を逸らして、困ったような溜め息をついた。

 息が少し上がっている。頬も紅潮して、細い眉根が苦しそうに寄せられていた。

「あ。照れちゃった?」

 自身の恥ずかしさをごまかしたくて、詩乃はわざとからかうように聞いた。

「いえ」

 力強い腕に、再び絡め取られる。

 あ……、と思うまもなく、詩乃は彼の腕の中にいた。

「一線を超えてしまいそうで、自分を抑えるのに苦労しています」

 赤らんだ熱っぽい目元で、射るように見詰めてくる明人の視線。

 低い甘い囁き声には、明らかに欲望のぎらつきがあった。