「結果はあとから死ぬ気でつければいい。会社で働いてたときだって、それは変わんなかったよ」
本当に、その通りだ。明人は、帝都銀行にいた頃の勇悟を思い出した。
支店に配属されるやいなや、実力もないのに大きい仕事に次々と挑む。
そして大ミスをしてはしこたま怒られるも、一所懸命な挽回と愛嬌で、なんだかんだみんな勇悟を応援してしまうのだ。
天才肌でなんでもこなせてしまい、なおかつ冷めた性格の明人にとっては、考えられない生き方だ。
明人は昔から、あらゆる面で冷めていた。
勉強も運動も、だいたいのことはそれなりに出来てしまう。
必死になって全力で仕事をしたこともないのに、少し工夫すればそれなりの成果を残せてしまうのだ。
もちろん、周囲の期待に応え切れなかったり、思うような成果が出ないこともある。
しかしそれすら、淡々とリカバリーすればなんとか出来てしまった。
勇悟のように、頑張りと人柄で突き進んでいくスタイルは、明人の生き方とはほど遠かった。
ましてや、惚れた女性のために仕事を辞めるなんて。
明人には考えられないどころか、違う星の価値観のようにすら感じられる。
勇悟は明人にとってまったく理解不能で、突拍子もなくて、惚れっぽい……大事な、親友だ。
「愚かですね」
微かに笑って、明人が小さく呟く。
「うるせー! その愚かなオレの門出を祝いにきてるお前だって愚かだろ! ありがと!」
勇悟が、笑いながら明人のグラスにがちゃんとジョッキをぶつけた。
