「……え、えと……ちょ、ちょっと待って」

「はい」

「仕事、辞めるの? なっ、なんで?」

 詩乃は、再び働き始めた頭に、急速に疑問が浮かんでくるのを感じた。

 明人が、同じ気持ちでいてくれたことは分かった。

 本当に仕事を辞めるなら、当然ながら転勤もしない。

 ここまでは分かる。しかし、いくらなんでも、転勤したくないからといって辞めてしまうなんて。

「いくらなんでも、急に収入が無くなると困るんじゃ……」

「経済的な心配は、正直ありません。片手間にやっていた小説が既にそこそこ売れていますし、投資も順調です。預金も十分にありますし」

 そういえば、前に見せてもらった小説作品。

 詩乃は忘れていたが、そもそもあれだけで既にささやかに暮らしていけるくらいの収入にはなっているのだった。

「投資……?」

「はい。前に、話しませんでしたっけ」

 そういえばそんな話もあった。ずいぶん前に、手堅い投資をずっと続けているという話は聞いたことがある。