玄関のチャイムが鳴っている。

 もう、夜の八時近かった。荷物が来る予定もないはずなので、セールスに違いない。

 女の一人暮らし、予定外の訪問には居留守を決め込むのが吉だ。

 詩乃は泣き腫らした顔を上げ、立ち上がった。

 もう一度、チャイムが鳴る。居留守を決め込んでいると、今度はスマートフォンが鳴った。

 まさか……と思って発信者を見ると、明人その人だ。

 インターホンに駆け寄り、画面をつけると、スマートフォンを操作している明人が映っていた。

 玄関のドアを開けると、明人は驚いたように少しのけぞった。

 すぐに詩乃の顔を見つめて、一歩距離を詰めてくる。

「すみません。来て、しまいました」

「明人くん」

 自然に微笑めていたかどうかは、分からない。

 どのみち、泣きに泣いて酷い顔をしているはずだ。

「お疲れさま。なあに、慌てて……」