「で、どうなんですか。活動の方は」

 明人が、勇悟の近況に話を向ける。

 帝都銀行を辞めた勇悟はというと、元々やっていたバンド活動に明け暮れている。

「んー、ぼちぼちかな。ネットが発達したおかげで、食いっぱぐれなくて済んでるってとこ」

 ボーカルとして活動している勇悟は、そこそこ人気が出ているようだった。

 ライブや物販の売り上げというよりは、バンド活動とSNSを連動させた広告案件で収入を得ているらしい。

 さすがは元エリートサラリーマン、ちゃっかり食い扶持は稼げているらしい。

「辞めたときは、本当に愚かだと思いましたよ」

 日本有数のメガバンクで出世の道を蹴って、バンドマンに転身。

 自分には絶対にありえない選択肢だ、と明人は思う。

「うるへー」

 茶碗蒸しを啜りながら、勇悟が言う。

「好きな女が、ステージで歌ってるオレの方が好きだって言うんだ。それだけで、会社員なんか辞めてやる価値あるぜ」

「そうですか」

 きっぱりと言い切る勇悟の目は、夢と恋の喜びに輝いている。

「そりゃ、不安はあるよ。バンドでそこまで儲かってるわけじゃないし、なんの保障もない。でも、男が一度、こうと決めたんだ」

 ぐいっとビールを飲み干して、勇悟は語る。