家の前まで来た頃、ポケットに入れたスマートフォンが短く振動した。

 玄関の鍵を開けて室内に入りながら、なんとなくスマートフォンを取り出す。

 ちらりと見た画面に映った、メッセージ差出人の名前を見て、どきっとする。

 明人からだ。

 彼の方から連絡をくれるなんて、珍しい。

 玄関で立ったままメッセージアプリを開いた詩乃は、画面に表示された文章に釘付けになった。
 
 ——異動の内示が出ました。東京へ転勤となります。
 配属は来年度からです。
 それまでに私たちの関係を見直したいと考えています。——
 
 きぃん、と、静まり返った玄関で耳鳴りだけが広がる。

 彼らしい、無機質な文章。

 異動の内示。東京への転勤。

 来年度から、配属。

 関係を、見直したい。

 立ち尽くしたまま、動けない。画面から、目も離せない。

 全身が熱くなるような、冷たくなるような、混乱した感覚が詩乃を貫いた。

 頭が、真っ白になっていく。

 詩乃はポケットにスマートフォンをしまい、ヒールを脱いで部屋に上がった。

 部屋の電気をつけ、暖房をつけ、コートをかける。

 洗面所で、手を洗ってうがいをした。

 静まり返った、ひとりの部屋の中で。