「なんだか、疲れてそうだから。お昼、早めにとってもいいのよ」

 詩乃が、力なく微笑み返す。

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」

 いつか言った「大丈夫」よりも、ずっと覇気がないのには自分でも気づいていた。

 側から見て、はっきり分かるほど元気がなくなっているなんて。

 まだ何かが決まった訳でもないし、明確に拒絶されたわけでもなんでもない。

 なのに詩乃の心には、次第に不吉な予感が広がりつつあった。
 
 寒い日だった。

 春はもうすぐそこなのに、今夜は指先がかじかむほどに冷える。

 まだ夕陽の名残りがある帰り道を歩きながら、詩乃はコートの前をきつく重ね合わせた。

 午後五時半頃。ずいぶん日が長くなっているが、それにしても今日は冷え込んでいる。

 年度末の総務部は残業三昧になるかと思っていたが、そんなことはなくて拍子抜けだった。

 経理に関しては、大部分をよその会計事務所に任せているらしい。

 詩乃は普段はやらないちょっとした経理事務を手伝うだけで、忙殺されるとまではいかなかった。