それに——もうまもなく、転勤を控えているはずだ。
詳しくは聞いていないが、まだ辞令が出ていないだけでほぼ確定事項なのだと言っていた。
もし二人の今後の交際について考えるのなら、転勤することについて何か提言があるはずだ。
もしかしたら、転勤を前に関係を精算しようとしているのかも。
それなら、明人が転勤することについて何も言わないのも辻褄が合う。
おそらくまもなく控えている転勤が、二人の関係の終わりを告げるのだとしたら。
詩乃はぱっと立ち上がり、動悸のする胸を抑えて台所に向かった。
コップ一杯の水を飲み、気持ちを落ち着かせようとする。
さっきまで駆け巡っていた甘い夜の記憶と、不穏で辛い想像と。頭の中でごちゃごちゃになって、耳鳴りすらしてきそうだ。
気を紛らわせたくて、水切りカゴに伏せてあったままの食器を棚に片付けようとした。
