ときめきと多幸感と戸惑いと、恥じらいと迷いと興奮と。

 激しい感情が様々に混ざり合って、どうしていいか分からなかった。

「いいよ。好きにして」

 この言葉は、ただ自然に、するりと口から溢れていた。

 勇気を出したわけでもなく、後先を考えたわけでもなく。

 ただ目の前のこのひとに身を委ねたい、そんな本能的な衝動に、素直に従った。

 しかし彼ははっきりと、

「駄目ですよ」

 と言った。

 やけにきっぱりと、いつも以上に淡々と。

 もしかして明人は、ただ単に警告していたのだろうか。

 恋人同士でない男を、誘惑するような素振りを見せてはいけないと。

 薄暗がりで見えた表情も、どこか苦しげで硬くて。

 苦しそうに聞こえたのは、たしなめる気持ちを押し殺していたのだろうか?

 もしかしたら、軽い女だと思われてしまったのかもしれない。

「違うのにっ、違うのに〜!」

 詩乃はひとり騒ぎながら、足をバタバタさせた。