目を閉じると、あの夜の寝床で向かい合った明人の気配を想い描いてしまう。

 すぐそばに素肌で感じる体温は熱いくらいで、すぐ目の前に横たわる彼の身体に触れてみたくて。

 ドキドキしながら伸ばした手。応えるように握り返された手指の節のひとつひとつ。

 そして、力強い腕に絡め取られて、耳元に囁かれた悪魔のような——
 ——どうするんです? 私が……私が、欲望のままに貴女に、触れたら——

 甘美な、めくるめくような、恋の嵐が胸の中に吹き荒れる。

 思い返しただけで、枕に顔を埋めてじたばたしてしまう。

 甘い、なんて甘い夜の思い出。

 あんな声で、あんな表情で囁かれたら、もうどうなってもいいと思ってしまった。

 切なげに、苦しげに絞り出したようなあの囁き。

 あの夜のひとときは蜜に潜んだ毒のように、詩乃をのぼせ上がらせた。

 でも——結局はあのあと、少しの距離を置いて何事もなく一夜を明かした。

 詩乃が長い間眠れなかったのは、言うまでもない。