緊張は解けてきていた。まるでいつもしている「今日は食後のお茶、どれにする?」の会話のように、自然体で話せている。

 詩乃は掛け布団をめくり、ベッドの中に入ろうとした。

 素足を、掛け布団とシーツの間に差し入れる。ひんやりしている。

 着ている作務衣と布団の衣擦れの音が、妙に大きく耳に残った。

 きし、と、ベッドが軋んで、詩乃がめくったのと反対側の掛け布団が軽くなった。

 明人が、長い脚をシーツの上に揃えている。

 どきんと、心臓が高鳴った。

 布団の中に身を横たえ、枕に顔を埋める。

「電気、消しますね」

 明人が一声かけてから、枕元にある照明のスイッチを切った。

 ゆっくりと、室内が暗闇に包まれる。

 残っているのは、ベッドの足元から漏れる仄かな灯りだけだ。

 明人は眼鏡を外し、脇の小さなテーブルに置いた。

 暗がりに微かに浮かび上がる横顔は、表情が読めない。

「では……寝ましょう」

 静かに身を横たえてから、明人はいつもより小さな声で言った。