社長との面談を設定してもらえるとは聞いていたが、望みは薄そうだ。

 おそらく、頼むから直属の部署に来てくれとせがまれて終わるだろう。

 まもなく転勤することになるだろうが、彼女と離れるのは考えられない。

 まずはその正直な気持ちを伝えて、それから詩乃の気持ちを確かめたい。

 気がついたら、普段よりずいぶん長い時間を入浴に費やしていた。

 といっても、普段はシャワーで済ませることが多いので、たいした時間は経っていないのだが。

 そこまで考えて、明人はお湯から上がった。

 浴槽のお湯を抜き、洗い場を軽く洗い流してから脱衣所に出る。

 相変わらず、外では強い雨風が吹き荒んでいるようだ。

 手早く体を拭きながら、夕食はなにがあるのだろうかとふと考える。

 宿に、この地ならではの料理を楽しめる小さなレストランがついていたはずだ。

 館内着である作務衣を着ていると、突然、耳をつんざくような雷が轟いた。

 激しい落雷だ。続けて、ふっと照明が落ちる。

 ほぼ同時に、戸の向こうから、怯えたような悲鳴が上がった。

 あのひとが——詩乃が、怯えている。

 考えるより前に、明人は脱衣所から飛び出していた。