答えた瞬間、くしゅんとくしゃみが出た。

「えへへ。ちょっと冷えたかも」

「すぐに温まってください」

 明人が指す方には、浴室の扉がある。

 駆け寄って、戸を開けた。

「あ! なんかすごい良い感じのお風呂がある!」

 覗き込んで見ると、立派な檜風呂だ。木の良い香りが、ほんのりと漂っている。

 露天ではないが、この嵐ならその方が却って都合がいいだろう。

「檜風呂ってわたし初めて。嬉しいなあ」

 浴室を覗いてニコニコしていると、明人は荷物を置き、スマホとタブレットを手に取った。

「お先にどうぞ」

 タブレットを小脇に抱え、部屋を出て行こうとする。

「私はロビーで待っています。遠慮せず、ゆっくりしてください」

「え、なんで?」

 詩乃は、きょとんとした。

 行動の意図が分からない。待つだけなのに、なぜロビーに行こうとするのだろうか。