「ええ。せっかくの機会ですから」
部屋の前に着き、明人は詩乃を見下ろして少し微笑んだ。
鍵を開け、中に入る。
「これは。良い部屋ですね」
「すごーい! キレイ!」
清々しい畳の香りと、照明の柔らかく暖かい光が部屋中に満ちていた。
室内は広々としていて、手前の和室には座卓と座椅子がある。
大きな窓には、今は暗い雨模様が映り込むだけだ。晴れていれば、景色もいいのだろう。
「テンション上がっちゃうなぁ」
詩乃は踊るような足取りで、部屋中を見て回った。
今から明日の朝まで、この綺麗な部屋で明人と二人きり。
お泊まりとなると最初は緊張したものの、今はとにかく旅のウキウキが勝ってしまう。
「落ち着けそうですし、よかったです」
「ね!」
