「私もですよ」

 明人が、口を開く。

「女性と、こんなに……」

 言い淀んで、曖昧に言葉を濁す。

 明人は一瞬たじろぐように、くいっと眼鏡を押し上げた。

「こんなに、よく会う間柄になったのは初めてです」

 他の言葉を言いそうに見えたのは、自分の願望に違いない。

 詩乃は、そう思うことにした。

「……そっか」

 テーブルに目を落とす。可愛らしいカップに、まだカフェオレが残っていた。

 帰りたくないなぁ。

 思わず、心の声が漏れそうになる。

 もっともっと、彼と一緒にいたい。もうすぐ帰りのバスに乗って、家に帰って、一人で眠るなんてなんだか信じられない。

 もっとずっと、長い間、明人と一緒にいるのが自然なような気がする。

 ふと気がつけば、窓の外はすっかり暗くなっていた。

 まだそこまで遅い時間ではないはずなのに。