「ありがとうね」

 しみじみと、詩乃が呟く。

「ん。なにがですか?」

「いつも。わたしと、仲良くしてくれて」

 今度は、まっすぐ明人の目を見る。

「明人くんと、こんなに仲良くなれるなんて思ってなかった」

 初対面のときから、面白そうな人だとは思っていた。

 仲良くなりたいとも思ったし、引っ越したばかりの街で良い人に出会えて嬉しかった。

「ううん、良いお友達になれそうだとは思ってたんだけど」

 明人は静かに頷きながら、黙って聴いている。

 いつもの、明人が耳を傾けてくれる時間。

 旅先でも、二人の間に流れる穏やかな空気は変わらない

「こんなに……こんなに、そばにいて当たり前の人になるなんて」

 なんと言えばいいか迷って、ふと出たのはこれだった。

 そばにいて、当たり前の人。

 自分の人生にしっくりと馴染み、これからも一緒にいるのが当たり前なのだと思ってしまうような人。