「だ……だってぇ……」

 好きなんだもん——の気持ちが、もう喉元まで迫り上がってくる。

 好き。明人くんが、好き。想いが溢れて、こぼれてしまいそうになる。

 でも——さすがに、この場では絶対に言えない。

 もしも同じ気持ちでなければ、帰るまでどんな顔をして過ごせばいいのか。

 少しずつ冷静さを取り戻した詩乃は、恐る恐る顔を上げた。

 明人は何か気遣わしげに、窓の外を見ている。強い風が、雨を窓に叩きつけている。

「疲れましたか?」

 詩乃の顔を見て、明人が優しく言う。

 もう、いつもの明人だ。淡々としている。

「うん、少し」

 ほっと息をつきながら、詩乃はテーブルの下で少し足を伸ばす。

「はしゃぎすぎちゃった。だって、楽しいんだもん」

 カフェオレをひとくち飲み、時間を確認する。

 バスの時間まで、まだ少し余裕がある。

 バス停まで大した距離ではないが、この雨風だ。タクシーを呼んだ方がいいだろう。