「なにがですか?」

 明人が、カップを置いて聞き返す。

「いつもは、おうちで過ごすことが多いし」

 そういえば、二人でカフェに行くのも久しぶりだ。

 あんなに頻繁に会っているのに、過ごすのはいつも詩乃の家で。

 もちろん、その詩乃の家が一番安らげるから、そこで会うのだが。

 しかしこうして改めて「デート」でカフェに入っていると、まるで恋人同士のようだ。

「こうして旅先で一緒にいると、まるで——」

 彼氏、としての明人が、目の前にいるような錯覚に陥ってしまう。

 詩乃は、いとも簡単に妄想の世界に足を踏み入れてしまった。

 もしも明人くんが、彼氏だったら。

 このあとは、手を繋いで帰路につくのかな。

 帰りのバスで眠ったわたしの頬に、キスしたりするのかな。

 ううん、彼氏なんだもん。日帰りじゃなくて、どこか素敵な旅館に——