「うん、大丈夫。ありがとうね。明人くんは?」

 リュックを荷物入れに収めながら、詩乃は明人がコートを脱いで背もたれにかけるのを見ていた。

「コートが分厚いので、平気ですよ」

「あらら。乾くといいけど」

 席について、改めて店内を見回す。

 オレンジ色の光が溢れるランプに、レトロな味わいがある。

 古いが手入れの行き届いた調度品に、手書きのメニューがなんとも家庭的だ。

「すごく雰囲気いいね。近くにこんな良いお店があって、よかった」

 テーブルは小さいが、使い込まれていて上等な木の温もりを感じる。

 ふかふかのソファーに座ると、対面でも明人との距離は近かった。

「ええ。ここもチェックしてありました。カフェオレが美味しいらしいですよ」

「いいね」

 飲み物は二人ともカフェオレ。ちょうどおやつどきなので、自家製の焼菓子も頼んだ。

「ふふ。なんか、いつもとちょっと違うね」

 ほどなくして運ばれてきたカフェオレのカップを両手で抱えながら、詩乃は内緒話をするように言った。