到着した頃には、既に日が高かった。
雲は多く風も強かったが、春の始めにしては暖かい。
緑と水が豊かな古い街並みを、二人は連れ立って散策した。
いつもは話が尽きないが、今日はあるもの全てに目が奪われるようだ。
詩乃はいつもよりほんの少しだけ緊張しながら、すぐ隣に明人の気配を感じつつ綺麗な空気を味わった。
好きな人と、知らない街を歩いている。
何もかもが新鮮で、わくわくして、走り出しそうなくらい気持ちが昂る。
何度も見上げた明人の面差しはいつも優しくて、柔らかい視線を詩乃に投げかけてくれた。
「素敵。ちょっと遠出しただけで、こんな景色が広がってるなんて」
石畳の通路や、小径の水路が趣深い街だ。
二人が住んでいる都心とは、まるで別世界だった。
観光客は多いが、活気があるというよりは落ち着いた雰囲気が心地良い。
