可憐な華はには毒がある。



連絡も終えたので、昇降口から外に出る。


麗らかな春。咲き誇る桜の美しさに目を奪われるところだか、視界に映るのは人、人、人。

ーーしかも綺麗なお姉様方が沢山。


……もしかして、いや、もしかしなくても、これはお兄ちゃんだな。


美形なお兄ちゃんの周りには昔から人が集まっていたから、慣れている。ちっとも寂しくなんてない。
いつも通り、人を掻き分け中心にいるであろうお兄ちゃんの元へむかう。


「お兄ちゃん。おまたせ。」


綺麗な髪を自然に揺らし、少し上目遣いで、さり気ない微笑みも添える。

ーー完璧。

……昔からモテていたお兄ちゃんの隣を歩くには、周りをしっかり落としていくしかない。


全く、モテる兄を持つと大変だ。


……そうしないと危険だということを15年間で身をもって学んだからね……。もちろん、危害を加えたお姉様方は社会的に抹消されている。


さすが、お兄様。ウン、圧巻ダヨ。


私の可愛さにやられたお姉さま方が増えないうちにさっさと退散することにする。


「お姉さま方ごめんなさい。私達もう行かなきゃ行けないんです。」


と、涙目で訴えかけて、すぐさま車に乗り込む。


「出発して。」

と、運転手にいい、お兄ちゃんの方をむく。



「あれ?お兄ちゃん、なんで黙ってるの?」


目を逸らして、言いたくないのを誤魔化すように窓の外を見ているお兄ちゃん。なんかデジャヴを感じる。


「……言い忘れてたんだが、総長を乗せてるんだ。」



驚いて、車内を見渡してみる。ちょっと急いで乗り込んだから、周りのことなんて気にしてなかった。と、見たことがある、黒い物体を発見した。


「……徠さん?」

「……また会ったな。アルス。」


えっと……さっきのことだよね?とか
徠さんが総長なの?とか
相変わらず綺麗な人だな。でもフードで隠れていてやっぱりあんまり顔がわかんないや。とか
色々考えていたら、反応がないことに気づいた徠さんが声をかけてくれた。

「どうしたんだ?」

って、数ヶ月前に助けてもらったお礼を言いたかったんだった!徠さんが総長だった事実に衝撃を受けて、危うくお礼言いそびれるところだった…危ない、危ない。


「アルス……?」

「あっ、はい。先程ぶりですね。」

徠さんの傍に移動し、しっかりと向き合う。

「私、数ヶ月前に徠さんに助けていただいたと兄から聞きまして、ずっとお礼言いたかったんです。」

「本当にありがとうございました。」

深々とお礼をする。黙っていた見ていたお兄ちゃんも慌てて、

「妹を助けてくれて、本当にありがとう。徠。」


「何かお礼させて欲しいです。」


徠さんの顔を覗き込んで言う。


「……。じゃあ、今度俺の家で一緒にお茶でもしてくれないか?」


こちらを伺うように話すから、なんだか子犬に見えてきてつい受け入れてしまう。私、男の人苦手なのに。


「それでいいなら…。」


「あと、タメ口で。俺のことはネモって呼んで。」


と、いいながらフードをとる。車の中でも輝く金髪に目を奪われて、反射的にうなづいてしまった。

「おいっ、お前っ……。」


お兄ちゃんの焦った声を聞いてやっと我に返った。


……待って今のは真名……?


「ま、まな…ですか?」

徠さん、基、ネモからの返答はない。
ので、聞き方を変えてみる。


「ネモって真名?」


「そうだよっ!アルス!」



つ、つっこみ所多すぎっ!
どこからツッコんだらいいのかわかんないよっ!
キャラ変し過ぎだし、真名を簡単に教えるなんて不用心だしっ!そもそも、なんで私の名前知ってるのっ!


「え、えっと……質問したいことが沢山あるんだけど……。」



「ん?なーに?アルスの質問にだったらなんでも答えるよ。」


こてん、とその綺麗な金髪揺らしてこちらを見つめるネモ。完全にさっきの私の真似をされている。




「じゃあ、ネモ、あなたって何者?」
これはただの確認に過ぎない。


「うーん、なんて答えたらいいのかな?僕は僕以外の何者でもないのだけれど……」


そして妖しげに目を光らせて答える。


「でも、君の望む答えをするなら、そう、君らと同じ妖だよ。」

ホッとしている自分がいることに気づく。


心の奥底にあった、不安の種。
美の暴力と表現しても足りないくらい美しいこの人が人間であったのならば激しい嫉妬に駆られていただろうから。