絶望的な小鳥遊さんのスケジュールを変更して、スケジュール表を作成したりしたらあっという間に小鳥遊さんとの待ち合わせ時間だ。

「はぁ、なんなんだ。あの一日の端から端まで入れた仕事量は。」

ネガティブな言葉はあまり言わないようにしてはいるけど、さすがにやばかった。車のトランクスに鞄や上着を入れて、僕は車内に乗り込みエンジンをかける。

「ほんと一日にあんなぱんちくりんな仕事入れてたら、勉強や個人の時間どころか、学校に行く時間すらなかった。」

人気とは言え、彼女はまだ高校学生だ。高校は人生に1度のものだし、いつしか僕の担当していた芸能活動してた誰かが学校も大事な女優や演技なのに必要な素材です。

「なんて言ってたしな。」なんてことを思い出しながらハレン社長からメッセージで送られた小鳥遊さんとの待ち合わせ場所に車で向かう。

まあ僕もさすがに全部の青春時間までを仕事で埋め無かったけどね。前マネはあまり小鳥遊さんに対する思いやりが無かったのかもな。

「そもそも思いやりある奴がこんなニュースになる訳ないな。小鳥遊さんの前マネのストーカー事件。」

カーナビで流しているテレビやラジオが朝からこのニュースばかりだ警察に送られたのが匿名だったのもあるだろうけど、このニュースを見る度にやるせない気持ちになる。

「お、星ヶ丘駅の駅見えてきたな。」

なんて思っていると駅のロータリーに到着。

「あ、あの子かな?」

人が滞る中で彼女は一人だけ違うオーラがColoRuNeAのセンターを務めていることを認めざる得ないなと思いながら僕は車を止めて彼女の元へと向かう。

「おはようございます!ハレンプロダクション芸能事務所のマネージャーの来栖 咲夜と申します。」

「あ、おはようございます!もしかして、私の新しいマネージャーですか?本日からよろしくお願いします!」

アイドル特有の可愛らしい笑顔はやはり流石、今人気絶好調の小鳥遊 夢唯と言えるかもしれない。あの人通りが多い中でひと目で彼女だとわかってしまったもんな。

「じゃ、いこっか!」

車のドアを開けて彼女を乗せて、僕も乗る。彼女の香水だろうか、ふわっと香るのはどこか覚えのある花の香りがした。

「はい!よろしくお願いします!」

静かな沈黙の車内は少しピリッとしている気がした。たまらず僕はルームミラーをちらっと見ると後部座席でスマホを弄る小鳥遊さんが移る。流石にあのニュースばかりで本人の前ではと思い音楽を流した。

「…懲役1年って短。」

すると彼女から独り言が呟かれた。

「……」

懲役1年か…そうだよな。被害者からしたら僕よりも更にきついよな。彼女になんて顔をすればいいかわからないが、あくまでも普通でいよう。

「あ、今日は歌番組とファッション雑誌と次回の仕事の打ち合わせですよね?」

なんとなく聞かない方がいい気がした。少し張りつめた空気が一転して、車内がぽっと明かりが灯って安心した。

「いや。今日は歌番組と打ち合わせだけだよ。」

「あれ?スケジュール間違ってましたっけ?」

「間違ってないよ。小鳥遊さんは働きすぎだからスケジュールをズラしたんだ。これ新しいスケジュール表だよ。」

赤信号になったのでブレーキを踏み、クリアファイルを後部座席に座っている小鳥遊さんに渡す。

「本当だ。朝から晩まであった仕事が…午前中か午後になっているわ。」

「一日あるのはTV撮影くらいで月2くらいじゃないかな。」

信号が青になったからゆっくりアクセルを踏む。安全運転とあまり車内が揺れないように慎重にハンドルを握る。

「嬉しいです。学校とかあまり行けないし、自分の時間もなかなか作れなくて、来栖さんありがとうございます!」

ルームミラー越しでも不覚にもドキッとしてしまった、アイドルの作り笑顔じゃない素直な笑顔だった。

「ふふ、マネージャーとしてやったまでだから。でもそう言ってもらえたなら嬉しいよ。」

芸能人の素を見れた時に、僕頼られている気がして、マネージャー頑張ってよかったなって思うんだよな。

「今日の打ち合わせ内容はわかっているのかな?」

「はい!来月の日曜日に開催される、東京都内で行われるファッションショーに出させて頂けるんですよね!」

「うん、そうだよ。国立競技場でやるんだよ。」

「ランウェイを歩けるなんて光栄すぎて夢みたいです!」

こんなデカイ仕事を人気アイドルとはいえ、まだ17歳の子が担うなんて。小鳥遊さんは笑って言ってるけど相当なプレッシャーがあるだろう。

「仕事をきちんと理解しているのは素晴らしいことだ。でも僕に困ることとかあったら、頑張りすぎずに出来ることあれば頼ってくださいね?」

一人でなんでも熟すのなんて絶対無理なのだから。僕ができる範囲のことあればなんでもやりたい。

「はい、そう言っていただけてとても心強いです!ありがとうございます!」

少し不安ではあるが僕は一件目の仕事現場を時間30分前に到着した。小鳥遊さんを楽屋に通して、彼女専門ヘア&メイクさんに連絡する。

凄いな専門メイクさんがいるのは、今の仕事5年いるけど初めてだ。

ーーーコンコン!と楽屋のドアがノックされた。

「はい!今開けます!」

僕は急いで楽屋のドアを開けると彼女専門ヘア&メイクさんであるシライアさんだ。

「はーい!こんにちは!あなたが夢唯ちゃんの新しいマネージャーの来栖さんですね、初めまして、シライア・鈴木です!」

「あ、初めまして、小鳥遊のマネージャーを務めることになりました。来栖 咲夜と申します。」

シライアさんはアメリカと日本のハーフだとご本人からお伺いした。このエネルギッシュは日本人に無いから少し驚いたけど話した感じはあの明るさと気さくさが良い人だった。

「さてと、硬い話はおーわり!夢唯ちゃんサクッとヘア&メイク終わらせちゃいましょう!!」

「はい、本日もよろしくお願いします。」

礼儀正しくお辞儀する、小鳥遊さん。

「シライアさん、小鳥遊をお願いします。」と僕は楽屋から出て、出演者やスタッフや監督へ名刺を渡したり、挨拶に回りながら考えていた。

「んで小鳥遊さんのマネージャーは長続きしないんだろうか。」

車内は少しピリついていたけど、それ以外は何ともなかったし。今日の事件があったのだから、小鳥遊さんを考えるなら、逆に少しピリついているのは当然であり仕方の無いことだ。危機感能力があると僕としては安心するけどな。

「ふぅ。とりあえず僕のやるべき事は一通り終わったかな。」

踵を返して、小鳥遊さんがいる楽屋をノックしようとしたら。

「今回の事件早めに捕まって良かったわね。」

シライアさんの声が聞こえた。盗み聞きしているようで嫌だなと退散しようとしたが

「…はい。シライアさんに相談して良かったです。」

「あなた一人で抱え込むから心配なのよ。まさか1年間もあのマネージャーのストーカー被害にあってたなんて、もう心臓が飛び出るかと思ったわ。」

そんな衝撃的な言葉に僕は我慢できなかった。とは言え、常識はきちんとしなければと自分にブレーキをかけた。

ーーーコンコン!とノックをする。

「はーい!あ、来栖さんおかえりなさい!」

「お疲れ様です。マネージャー。」

「小鳥遊さん、シライアさんお疲れ様です。あの盗み聞きで申し訳ないのですが。ストーカーの件の話どういうことなんですか!?」

シライアさんと小鳥遊さんが目を合わせている。

「聞こえる声で話していた私が悪いわね」

「いいえ。シライアさんのせいではありません。」

僕の額から冷や汗が垂れる。

「実は前回のマネからストーカーを受けていたんです。帰宅時間とか着替えたりとか、気付いていたので絶対家の近くには近寄らせませんでした。」

だから…待ち合わせが駅前なのか。普通は自宅前まで送り迎えが普通でおかしいとは思ったんだ。

「私が楽屋入った時、夢唯が怯えた顔で何枚もの封筒と写真を持っていたから夢唯に問い詰めたの。学校の下駄箱に入ってたんですって、大量の写真と手紙と…まああとは察してください。」

「私は前回だけじゃなく今までのマネージャーとは馬が合わないんです。男性は前回のみたいなのとか、女性が2回くらいついたことありますけど、嫉妬の目で見てるし。」

小鳥遊さんの悲痛が伝わり、僕が泣きそうだ。そんな辛い目に会ってたなんて。

「前々回のマネージャーに私物がなくなったり、服が破られたり、まさかグループの人と共犯してたなんて笑っちゃいますよね。」

「は?マジかよ、そんな…」

「ほんとそんなのがマネージャーってどうなんですかね?来栖さんが初めてでした。私を気遣ってくれたスケジュール表。」

まさか、小鳥遊さんのマネージャーが長く続か無い原因がその理由だったなんて。

「だから、私が匿名で警察にメールを送ったの。シライアさんに相談して。社長にも話はしてそんなマネージャーも共犯者も解雇してもらいました。」

ハレン社長は何も言わなかった、そんな背景があるなんて…僕は土下座する。

「この度まで小鳥遊さんのご不快をおかけして申し訳ございません!」

「え!?」

「WOW!!」

僕はマネージャーの1人として許せなかった、なんで小鳥遊さんがそんな目に合わないといけないんだ。

「なんで。来栖さんが謝るんですか。」

僕は思い出してしまった、学生時代の虐められていた時のことを僕は辛かった、現実から逃げてしまったほど。

「僕は悔しいからです。だって、本当ならマネージャーは芸能活動の人の支える仕事なのに、こんなこと…僕は耐えられない。」

まだ17歳の子に大人として情けなさすぎるだろ。ポンと肩を置かれて、顔をゆっくり上げると。

「シライアさん?」

シライアさんの勇ましい顔と優しい顔だった。

「よく言ってくれたわ!来栖さん!!」

あとアメリカの独特のパワーも感じた。

「え?」

「来栖さんになら、夢唯ちゃんを任せられるわね!私ね、夢唯ちゃんとは幼い頃から担当しててね、もう娘のような子なの!」

シライアさんの表情は実の母のような表情だった。

「僕、ここで約束します。小鳥遊さんを裏切らないと!男に二言は無い、小鳥遊さんが信頼できないなら小鳥遊さんを裏切ったらハレン社長に好きなだけ言ってくれて構わない。たとえ解雇になってもいい。」

僕は再び深々と頭を下げる。

「顔を…上げてください。来栖さん。」

小鳥遊さんの顔を見るとぽろぽろ瞳から涙を零していた。不覚にも涙を零す小鳥遊さんは綺麗だなと思ってしまった。

「…すいません。ごめんなさい!来栖さんは何も悪くないのに!…八つ当たりみたいな事を言ってしまって。来栖さんがそんな事しなくていいのに…」

小鳥遊さんって強くて優しいんだな。自分がどれほど傷ついても他人に気遣えるんだ。

「いいんだ。八つ当たりしたって仕方ない。それほど小鳥遊さん傷ついて来たんだから…」

八つ当たりだ、なんて優しすぎる。小鳥遊さんの立場ならもっと怒っていいんだ。相手を殴ったっていいくらいだ。

「シライアさんも…せっかくメイクしてもらったのに…。。。」

「いいのよ。メイクは直せばいいけど、夢唯ちゃんの心の傷はメイクでは消えないものね。」

そうだよな…どんなに謝ったって、傷は消えないし。何もならないよなと、拳を強く握りながら自分の無力さに下を向いてポケットの膨らみを見て思い出した。

「あ、小鳥遊さんこれ。」

「なんですか?来栖さん。」

「もう冷めちゃって申し訳ないんだけど、じはんきでミルクティー買ってきたんだ、良かったら飲んで!」

「…嬉しいです。ありがとうございます。」

「さ!時間がないから急いで、メイクしましょう!!」

涙を拭いながらメイクを直してもらう小鳥遊さんの姿を見て。小鳥遊さんをあんな涙を二度と流させないと、僕はこの拳と心に誓った。

……To be continued