時々本から視線をあげて彼女を見ると、音楽を聴きながら外を見ていたり、眠そうに目をこすっていたり。

スーツを着ているから社会人なんだろうなとわかるくらいで、でもちょっと幼さも残っている彼女。

何歳なんだろう?

どんな仕事をしているんだろう?

視線の中には居るんだけど、手は届かない位置。

混雑している電車の中では、声すら届かない位置。

でも、ふと顔をあげると彼女はいつも俺の視界のなかにいる。

そんな彼女が気になりだして、電車を変えることも車両を変えることもできなくなってしまった。

帰りが不規則な俺は彼女を見かけることはないけど。

今日は注意して乗り込んでくる駅を調べようと、電車が止まるたびに扉を注意してみていた。

「あ」

電車に乗り込んできた彼女を見つけて、思わず声が出てしまう。

とっさに手にしていた本で口元を覆い、彼女から視線をそらした。

いた。

この駅だったんだ。