あの日のキスの夜から10日ほど経っていた。
翌日は非番だったため翌々日に出勤したところ、有澤先生はすでに他の患者対応で忙しそうにしていた。
その後もタイミングが合わず、きちんと話す機会がないまま日々が過ぎていった。
(夢じゃない、よね?……私、有澤先生と、キスしたんだよね……?)
蕾は、仕事中もふとそのことを考えてしまう。
医師である有澤先生が、職場でそのような行動に出たことに困惑していた。それでも心の奥では嬉しさも感じていた。
「桜井さん?」
突然の声に我に返る。
そこには患者の一人、田村さんのお見舞いに来ていた母親の姿があった。
「あ、田辺さんの。こんにちは。どうされましたか?」
「うちの母が最近落ち着かないみたいなんです。少し診てもらえませんか?」
蕾はすぐに業務モードに切り替える。
感情的になってはいけない。
これが私の仕事なのだから。



