全ての患者とカルテ、そして備品の移動が完了したのは三日後の午後遅くだった。新しいナースステーションで最終確認を終えると、皆が安堵の溜息を漏らした。
「やっと終わった……」山本さんが椅子に崩れ落ちるように座り込む。
「本当にお疲れさまでした。これで一段落だね」
蕾も同様に机に肘をつきながら言った。
「いや、これからが本番だよ」
有澤先生の声が耳に入った。
見上げると彼はモニターに映る新しい患者データをチェックしていた。
「この新システムだと今まで見えなかった情報が見えるようになる。
例えばこの患者さんは過去の入院歴に特定の傾向があるみたいだね。
これからはこういった情報も踏まえた治療計画が立てられるようになる」
その説明を聞いて、蕾の中に新たな使命感が湧き上がった。
これからの日々は想像以上に過酷なものになるだろう。
でも同時に新しい可能性に満ち溢れている。
「じゃあ今日はとりあえず解散だね!明日からまた新しいスタートだ!」
吉岡さんが元気よく宣言すると、他のメンバーも苦笑交じりで賛同した。
病棟全体が疲労感と期待感の入り混じった空気に包まれる中、蕾は窓の外を見た。
夕暮れ時の空には美しいグラデーションがかかっている。
(この景色も新病棟からならまた違って見えるんだろうな)
そんな思いを抱きつつ彼女は静かに立ち上がった。
今日までの日々が夢だったかのような錯覚に陥りながらも、確かな現実として心に刻まれていく。



