蝉の声が耳につく季節。 中庭の桜の木はミドリで覆い茂っていた。 その日は空気が張り詰めていた。八月末、いつもより早く病棟に到着した蕾は、エレベーターを降りた瞬間にそれを感じ取った。 廊下の一角に人だかりができている—— 異動リストが今日掲示されたのだ。 「やばい……今日発表だったっけ?」 小さな呟きが背後から聞こえた。振り返ると同僚の梓が青ざめた顔で立っている。